今から130年程前のことです。
「ひゃぁー、岩から血が出とるぞぉー」
勝田大池の東から、飛び上がって走ってくる母親がいました。
「なんやなんや」
「岩から血が出とるとな、夢でも見とるのと違うか。」
と村人たちは、そんなことなどあるはずはないと相手にしませんでした。それでも真剣な顔をして話すので、それならと皆で池へ見に行きました。
おそるおそるそばに寄ってみると、確かに岩からまっ赤な血が流れています。猟師が岩に止まっている鳥を射とうとして、はずれた矢が岩に当たり、血が吹き出したのです。猟師はその場で腰を抜かしていました。
「やゃー、これはただの岩ではないぞ、神のみたまじゃ」
「このままじゃあかんぞ、なんとかしてまつらな」
しかし、この巨大な岩をどうして扱っていいのか、その時は考えつかなかったのです。
ところがある年、たいへんな不作にみまわれました。食べるものに困った村人たちに、さらに追いうちをかけるように、疫病が流行ったのです。この疫病の犠牲になったのが幼児で、何十人もの子供たちが次から次へと死んでいきました。
母親たちは我が命とひきかえにしてでも助けてやりたいと悲しみにくれました。
その時、母親たちは池で見つけた岩を思い出し、あの神霊な岩に願かけをしてみたら、と相談しました。
「村まで運ぼう」
力強い父親たちの言葉。でもあの巨大な岩をどうやって運びだせばよいのでしょう。
しかし、これ以上子供たちが苦しみ死んでいくのを黙ってみていられません。なんとかしてあの岩を運びたい。みんなで知恵を出し合い、竹林が続いているのを利用して、青竹を地面に並べ岩を運ぶことにしました。
それはたいへんなことでした。
こうして村でまつり、大しめ縄をかけ子供の健康を祈ったのです。
すると疫病もおさまり、母親たちが涙を流す日もなくなりました。
千人で引く程の巨大な岩のため、千引岩と言われ、それがまつられている千引神社は、血の道の神様と言われ、毎年4月3日、女達の手でおまつりし、お参りされているとのことです。
参道には毎年、たくさんの竹の子が顔を出します。